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ラッパー / ヒップ・ホップアーティストとしてのマイク・シノダ(前編:Linkin Park編)

Linkin Parkのボーカリストチェスター・ベニントンの自殺という悲劇からもうすぐで1年がたとうとしている。

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彼の死後もLinkin Parkは解散はせず、これからも活動を続けていくとみられる。追悼ライブでは多くのゲストが彼の歌声を引き継ぎ、新曲「Looking for an Answer」も披露された。しかし、バンドとしての今後の活動は不透明なままで、ただ続いていくだろうということだけが分かっている状態だ。

そんな中、精力的に創作活動をしているのがLinkin Parkのリーダー的存在、Mike Shinodaである。アルバム『Post Traumatic』が6月15日にリリースされるのに先立ち、現在6曲が先行公開されている。今回はそんな彼にフォーカスを当て、彼のこれまでの創作活動を総括したいと思う。特にヒップ・ホップ的側面における彼の功績・活躍はあまり語られることが少なかった。彼のリリックからヒップ・ホップ(の特に歴史的側面)とのつながりを見出し、ヒップ・ホップ史の中にMike Shinodaというアーティストを位置づけようとするのが、本稿の目指すところである。

この前編では、Linkin Parkというロック・バンドの中でMike Shinodaがラッパーとしてどのように活動してきたのかを振り返る。そのため、前編では作曲家としての彼の功績を語ることはしない。続く後編では、Linkin Parkの外の世界で、彼がラッパー / ヒップ・ホップアーティストとしてどのような活躍をしてきたのかを振り返る予定だ。

 

 私事になるが、ぼくが音楽という文化に真剣に向き合うきっかけになったのがLinkin ParkのライブDVD『Live in Texas』が近所のゲオで流れていたことがきっかけである(と、記憶している)。ヘヴィなギターリフとチェスターの激烈なシャウトだけで中学生の少年を熱狂させるには十分であったが、彼らのサウンドにはそれにさらにターンテーブリスト・Joe HahnのスクラッチとMike Shinodaのラップが加わっていた。この刺激的な音楽にぼくは夢中になったのだ。

確かに、基本的にLinkin Parkの楽曲内ではMike Shinodaのラップは「綺麗な歌の添え物(©R-指定)」である。別にこれが悪いことだとは思わない。彼のラップの小気味良さは楽曲のキャッチ―さに拍車をかけ、曲の推進力を大きく高めているといえる。事実、2nd『Meteora』(2003)は最大のヒット作であると同時に、彼のラップの割合が最も高いアルバムでもある。

しかし、ラップの割合が大きく減退した3rd『Minutes To Midnight』(2007)以降も、Linkin Parkのアルバムには一貫して彼のラップを大々的にフィーチャーした「ソロ曲」とでも呼ぶべき楽曲群が収録されている。これらの曲は彼にとって、「綺麗な歌の添え物」ではなく「オリジナルなMC」であることを証明し続ける旅であった。彼はバンドの一員でありながらも、ヒップ・ホップの先人たちへの敬意を示すことによって正当性を確保しながら、いちMCとしての矜持を保ち続けてきたのだ。

これ以降は、そのような曲を個別に取り上げ、Mike Shinodaとヒップ・ホップのつながりを紐解いていく。

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これはデビュー前のEP『Hybrid Theory』に収録されている曲だが、この中で彼はこうラップしている。

In a time when rock hip-hop rhymes are childish
You can't tempt me with rhymes that are empty
Rapping to a beat doesn't make you an MC
With your lack of skill and facility
You're killing me
And a DJ in the group just for credibility
I heard that some of you are getting help with your rhymes
You're not an MC if someone else writes your lines
And rapping over rock doesn't make you a pioneer
'Cause rock and hip-hop have collaborated for years

ラップロックのライムは子供じみてる
空虚なライミングには俺はそそられない
スキルも才能もないまま、ビートに合わせてラップするだけじゃラッパーにはなれない
やめてくれ、しかもグループにDJがいるのは「らしく」見せるためだろ
歌詞を書くのを手伝ってもらってると聴いたが、他人が歌詞を書くならお前はラッパーじゃない
そしてロックの上でラップしてもパイオニアにはなれやしないのさ
だってロックとヒップ・ホップは長きにわたってコラボレーションしてきたんだから

Hybrid Theory。これが彼らの初期のバンド名であり(類似した名前のユニットが存在したために改名)、デビューEP、そしてのちのメジャーデビューアルバムのタイトルでもある。「Hybrid」という単語を辞書で引けば、「混成」「交配種」という意味が出てくる。英語ネイティブ話者ではない筆者のいささかアクロバティックな解釈をすると、この単語には「何か異種のものを掛け合わせ、何か新しいものを『生成』する」という意味があるのではないだろうか。その時期に乱立していた「ミクスチャー・ロック」がただロックの上にラップを乗せただけの代物であったのに対し、彼らは最初から新しい音楽を作り出すことを目的としていたのだ。

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同じく初期の楽曲、そしておそらくMike Shinodaのラップスキルがが最もキレているLinkin Parkの曲がこれだ。"numerology"、"telekinetic psychology"などビッグワードを畳みかけながらもタイトなライミングをこれでもかというほどドロップしている。2枚目の『Meteora』(2003年)までは意図的にFワードを避けてきた彼らだが、最初期のこの曲では珍しく「bullshit」とラップしている。

1stのリミックスアルバム『Reanimation』(2002年)では、既存の曲の踏襲ながら新たにバースを書き直している曲が散見される。

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中でもヒップ・ホップ色が強いこの曲が白眉である。このアルバムにはのちにコラボレーションを行うターンテーブリスト集団X-EcutionersやThe RootsのBlack Thought、西海岸アンダーグラウンド・ヒップ・ホップ界の重鎮Evidence、NY出身のヒップ・ホップデュオ、Organized KonfusionのPharoahe Monchなどなど、ヒップ・ホップ畑からも錚々たるメンツが参加しており、彼らの越境性が伺える。

このように、Linkin Parkとヒップ・ホップ界の交流はこの後もずっと続いていくこととなる。Jay-Zとのマッシュアップ・アルバム『Collision Course』(2004年)は言わずもがなであるが、その後もBusta Rhymesとシングル「We Made It」(2008年)を発表したり、アルバム『The Hunting Party』(2014年)内の楽曲「Guilty All The Same」にはなんと御大・Rakimが参加。最新アルバム『One More Light』(2017年)の「Good Goodbye」にはPusha TとStormzyが参加している。

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いわゆる「ラップ・ロック」というくくりでシーンに登場したバンドの中で、これほどまでに多くの「本職」の面々と共演しているバンドもいないのではないだろうか。Mike ShinodaはJoe Hahnと共にアートへの造詣も深く、グラフィティ作品も多く手掛けていることからも彼らの文化への理解が伺える。このような理解がこのようなコラボレーションを実現に導いたのかもしれない。

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少し話題が脱線したが、個々の曲の紹介に戻る。続いては2nd『Meteora』に収録されている「Nobody's Listening」。

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ここまで触れてこなかったが、彼は日系3世である(この件については後編で大きく取り上げる)。そんな彼のルーツが垣間見える尺八の音のサンプリングトラックがクールである。
Yo, peep the style and the kids checking for it
The number one question is, how could you ignore it?

 ここではJay-Z「Brooklyn's Finest」のラインを引用しながら、自信ほどのスキル程がありながらシーンから無視(レッテル貼り)をされることに反発している。

3rd『Minitues to Midnight』(2007)の「Hands Held High」、4th『A Thousand Suns』(2010)は彼のラップのポリティカルな側面がよく伝わる2曲である。

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政治家や権力者が弱者を抑圧するという社会の不合理を痛烈に批判しているこの2曲は、ビートのスタイルこそ真逆なものの、根底にある怒りの温度は保たれている(後者ではPublic Enemy「Bring the Noise」のリリックが引用されている)。

そして同じく4th収録曲「When They Come for Me」は、変わり続けることへの誇りと変わらないことを望むヘイターたちへのディスが炸裂する名曲となっているが、ここでは過去のレジェンドたちに敬意を持っていることがよくわかるこのラインを引用したい。

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Lauryn said money change a situation
Big said it increase the complication
Kane said "Don't step. I ain't the one."
Chuck said that Uzi weigh a motherfucking ton
And I'm just a student of the game that they taught me
Rocking every stage in every place that it brought me

Laurynは言った、「金じゃ何も変わらない」(=Lauryn Hill「Lost Ones」)
Bigは言った、「金は問題を増やす」(=The Notorious B.I.G.「Mo Money Mo Problems」)
Kaneは言った、「踏み込んでくるな、おれはそういうんじゃない」(=Big Daddy Kane「Ain't No Half Steppin'」)
Chuckは言った、「ウージーはクソ重たいぜ」(=Public Enemy「My Uzi Weigh a Ton」)
俺は彼らが教えてくれたこのゲームの生徒にすぎない
全てのステージをロックするのさ

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この曲においてもThe Notorious B.I.G.の「Who Shot Ya?」からの引用で正統性をアピールしながらも、いかに自分がオリジナルなMCであるかをラップしている。

このように、Linkin Parkにおける彼のラップというのは、言ってしまえば「いかに自分がオリジナルでリアルなMCであるか」の主張にしか過ぎない。しかし、彼にはそうせねばならない事情があったのであろう。ヒップ・ホップの世界ではマイノリティであるアジア系であり、しかも当時ヒップ・ホップの「倒すべき敵」であったニュー・メタルのシーンから登場した彼には、このような証明の反復が必要不可欠であったに違いない。これほどヒップ・ホップ、ひいてはラップという表現方法に情熱を注いでいるロック・バンドのメンバーを、ぼくは他に知らない。賞賛に値すると、ぼくは思う。

続く後編(いつになるかはわからないけれど)では、彼のソロプロジェクトであるFort Minorや彼のレーベル:Machine Shopについて書けたらいいと思っている。しばしお待ちを。