なんでもかんでもはむり

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Superorganism『Superorganism』レビュー

日本初の24時間ヒップ・ホップ専門局・WREPの1周年記念ゲストということで、Chuck DがWREPに出演、Zeebraと共演したらしい。残念ながらWREPにはタイムフリー機能がついていないため、ぼくはその放送を聞いていないのだけれど、今日このアルバムを聴きながら思い出したのは何故かPublic Enemyのことだった。

Public Enemy『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』。1988年作。このアルバムによって彼らは一気にスターとなった。Chuck Dの政治的メッセージの色濃いラップももちろんのこと、Bomb Squadという制作部隊によってつくられるサンプリング・ミュージックの衝撃も大きかった。サウンドコラージュという形容がピタリとくるような、1曲の中にも複雑に多くの音が引用され、重ねられ、歪められ、ひしめき合っている。その音像がChuck Dのリリックをより遠くまで、より大きな速度をもって届けることの出助けをしたことは間違いない。

のちの人種差別発言騒動によってPEの活動は停滞する。それでもこのアルバムが色あせないのは、リスナーがChuck Dのリリックと同じくらい(もしくはそれ以上に)Bomb Squadの繰り広げる音の大冒険に心酔していることの証左ではないだろうか。

そしてこのようなサンプリング・ミュージックの出現以降、ポピュラー音楽のあり方は大きく変わった。引用の時代が始まった。アレンジの時代が、キュレーションの時代が、大いなる二次創作の時代が始まった。「オリジナル至上主義」はこの小さな島国ではまだ幅を利かせているが、結局は「みんながちょっとずつだけ違う」という逆説的な結末を招いている。

そして、このSuperorganism『Superorganism』。2018年作。『It Takes~』から30年。このアルバムもまた、大いなる音の冒険だ。でも彼らは黒人の権利を声高に主張もしなければ、ユダヤ人を差別する発言もしない。なぜならこのグループはすでに人種を超えて結成されている。インターネットで誰とでも繋がれる時代だぜ、人種なんかナンセンスだ。

 So just relax, oh just relax
Turn on, tune in, drop out if you can
And just relax, oh just relax
We're breathing in, breathing out, oh, oh

(だからただリラックスをして、リラックスをして

気分を上げて、ダイヤルを合わせて、できるなら逃げ出して

そしてリラックスをして、リラックスをして

私たちは息を吸って、吐いてる)

「Relax」より

このサビ部分では都会の喧騒、車のクラクションがサンプリングされている。そしてそれをかき消すように歌われるのがこの歌詞だ。何とも痛快ではないか。始まりと終わりには炭酸飲料の缶を開ける音が使われている。疲れ切った世界をあざ笑うように、彼らの音楽は爽快だ。

この曲だけを聴けば、彼らの音楽の中で使われるサウンドコラージュはこの音楽を日常に落とし込むことが目的のように思われるが、実はその限りではない。

「Nai's March」の中で日本の電車の発車音と共にサンプリングされているのは、なんと緊急地震速報

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映画『ゴジラ』の音楽を担当した伊福部昭の甥、伊福部達が作曲した日本人ならば誰もが聞いたことのある、あのインパクトのあるチャイム音。日常が非日常にひっくり返ってしまったあの日、あの瞬間に流れた音。この音によって(少なくとも日本人は)日常から断絶される。ボーカル・作詞を務めるのは日本人であるオロノ。東日本大震災を題材にしたこの曲の歌詞をぼくはまだかみ砕けていないけれども、日常からの断絶、そしてそこからの復興が描かれたポジティヴな詞だと解釈している。

 Tokyo, oh Tokyo
You're too tall of a truth to take in
Since we're grounded in a daydream
Can't wait 'til we meet up again

(東京、東京よ

受け入れるには巨大すぎる真実よ

私達は白昼夢の中

また会えるのが待ち遠しいわ)

「Nai's March」より

 「Everyone Wants to be Famous」「SPRORGNSM」など、社会を皮肉った詞も多いけれど、元になっているのはポジティヴな厭世感覚ともいえるもので、それは1曲目の歌詞に表れている。

 We know you feel the world is too heavy
But you can turn it all around if you want

(世界があなたにとって息苦しいのはわかってる

でもそれすらひっくり返せる、あなたがそう望みさえすればね)

「It's All Good」より

 Public Enemyから30年。サウンドコラージュは時代を映す鏡であり続けている。音の冒険は続く、キュレーションの時代は続く。我々が個人であることをやめ、『Superorganism』になってしまうまでは。

(訳は筆者による拙訳)