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『スリー・ビルボード』


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

2018年2月1日公開(アメリカ本国では2017年11月10日に公開)、115分

 <映画について>

2017年・第74回ベネチア国際映画祭脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得したドラマ。米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な広告看板を設置する。それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。娘のために孤独に奮闘する母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルら演技派が共演。「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」のマーティン・マクドナー監督がメガホンをとった。(映画.comより)

 

 最近は忙しくてできていなかった映画鑑賞活動を再開。TOHOシネマズ府中にて鑑賞。

今年度のアカデミー作品賞に『ダンケルク』『ゲット・アウト』などと並んでノミネートされている作品だ。

予告編を映画館で見た時は、「また黒人差別系の実話ものか」と思ったものである。『デトロイト』を見に行った時だったし、合わせて流れていた予告編がクリント・イーストウッド最新作『15時17分、パリ行き』だったのだから、脳が無意識に発生させるバイアスというものは怖いものだ。

でもこの映画は決して実話をもとにして作られたものではないことは、映画を見始めればすぐにわかることだ。登場人物はみな誇張しすぎなくらいにキテレツだし、アメリカ南部らしい<ムラ>性がこれでもかというくらい色濃く描かれている。

さらに物語がかなりのハイペースでずっと進行していくという作りで、絶えず新しい展開が画面上で展開されていくという非常にフィクショナルなつくりになっている。監督を務めたマーティン・マクドナーがもともと劇作家であったことを鑑賞後に知り、思わず膝を打った。脚本の力がとにかくものすごい、この映画は。アカデミーでは脚本賞はほぼ確実なのでは?

決して映像的にすごいことをやっているわけではないのに、脚本の面白さ一発だけで「なんだかすごいものを見た」と思ったのは久しぶりだ。鑑賞中にデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』っぽいなと思っていたら、なんと物語の舞台はどちらもミズーリ州だというではないか。この土地が持つ息が詰まるような閉塞感と、人間のいくらか醜い部分があらわになるこの二つの物語には、ミズーリ州という舞台設定が必要不可欠だったのだろう。日本で言うとどこだろうか、などと思ったが日本にこれほど「イヤ」な印象が強い土地はない。

鑑賞後誰もが印象に残るであろう、暴力警官・ディクソン。『デトロイト』で同じく極悪の警察官を演じたウィル・ポールターはもはや根っからの悪人にしか見えないほどの凄まじい演技をしていたのだが、この映画の悪役警官を演じるサム・ロックウェルはどこか愛嬌のある、憎めないキャラクターをこれまた見事に演じている。彼の恋愛事情については恥ずかしながらパンフレット内の町山智浩氏の解説で初めて気がついたのだが、そのあたりも含めて非常に奥行きのあるキャラクターである。物語の最初と最後でこれだけ印象が変わるのがすがすがしい。

主人公である母親・ミルドレッドを演じたフランシス・マクドーマンドについても書かねばなるまい。これほど閉鎖的で、どろどろとした沼地のようなミズーリの街において、彼女だけがひたすら<動>のオーラ、そして罵り言葉を発し続けている。それがそのまま周囲の人物に伝染していく様は痛快。

 話は二転三転するし、悪と善の境界線も非常にあいまいなこの映画だけど、見ていて「?」となるところは一つもない。それほどの脚本の出来が素晴らしいし、演出・演技のクオリティがとても高い。『デトロイト』を見た時に今年ベスト級だなと思ったのだが、早くもそれが更新されてしまった。あっぱれ。

 

いが