なんでもかんでもはむり

書きたいものだけ書く。音楽、映画、本がメイン。

今週の事々(2018/04/09~15)

月曜日。F1世界選手権第2戦・バーレーンGPは手に汗握る展開。ベッテルの針に糸を通すドライビングの凄み。「俺たちのフェラーリ」の作戦ミスを実力ねねじ伏せ勝ち取った勝利。久々にベッテルというドライバーの偉大さが伺えたレースだった。3強6台のうち3台がリタイアした中4位を持ち帰ったガスリーにもbig up。今年は3強のそれ以外という2クラス制のレースだと思った方が良いのかも。

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剛斗というMCのデビュー作『二十五念』(2018)を聴く。湯煙beeが大半をプロデュース、スナフキン、椿、鬼、押忍マンなどの客演陣というメンツから想像されるようなシリアスなブーンバップ。熊本のMCだが、やっぱ九州のヒップ・ホップというのはまた良いな。

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放送作家という生き方 (イースト新書Q)

放送作家という生き方 (イースト新書Q)

 

この本を読了。放送作家の仕事について知れたはいいが、やはりテレビ業界っぽさというか、端々に見られるミソジニー発言が目についた。最近をこれをよく気にしながら色んな言説を読んでいるから敏感になっている部分があるとは思うけど、それにしてもなあ。これじゃあいくらテレビというメディアには未来があると説いたところで、あこがれられる存在ではなくなっていくのでは。

スピルバーグ最新作『ペンタゴン・ペーパーズ / 最高機密文書』(2017)鑑賞。イーストウッドの実話ものが「金のかかったアンビリーバボー」でしかなかったのに対し、やっぱりスピルバーグは演出・カット・演技のすべてが高レベル。こっちの方が断然好みではある。特に役者陣の演技がすさまじい。

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 火曜日。Diploの新EPがよかった。今旬のLil Xanを起用したこの曲なんかもいい。

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wired.jp

こんな人だったんだね。勝手にEDMだけの人だって決めつけてた。

 水曜日。J.ColeのレーベルDreamville所属の新人、Cozzのデビューアルバム『Effected』が良かった。ラップがめちゃくちゃうまい。こういうラップ久しく聞いてなかったからブチ上がった。

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ユアネスというバンドを初聴き。一聴すると流行りのバンドっぽいんだけど、この手のバンドにしてはかなりテクニカル。凛として時雨感がちょっとあったり。

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木曜日。就活中に聴いたときめき♡宣伝部というアイドルに救われる。

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この曲がとにかくよい。

金曜日。乃木坂46シンクロニシティ』からカップリングのMVが2曲公開。特に3期生楽曲「トキトキメキメキ」がとにかく素晴らしい。岩本蓮加のかわいさが爆発してる。てか3期生かわいい子しかいない。神曲に神MVキターーーーーー!!!

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一方1期生曲「Against」は最後の(最後の、か・・・)生生星曲。生駒がとにかくかっこよすぎる。

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「永遠など信じるな」という歌詞が深く刺さる・・・。

Creepy Nuts『クリープ・ショー』、R-指定のスキルがビシッと詰まった怒涛の1枚。メジャー以降迷走してたけど、ここにきて路線がきちんと定まってきた感が。

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良いインタビュー。Creepy Nutsは「R-指定のユニット」ではなく「二人のやりたいことをやるユニット」だという至極当然のことに気づかされ、これまでの活動もすべて腑に落ちた。でもぼくはR-指定の純ヒップ・ホップ的側面の方が好みだから、もっと客演こなしてくれー!!DJ松永はトラックメイクの能力に限界が垣間見える気がするなあ。

そして夜はKOJOE『here』のリリースパーティ@渋谷WWW X。アルバムに参加した豪華客演陣がFEBB以外は全員集合で、まさに「ボスしかいない」状態。「BoS RuN DeM」はアンコールで5lack、RUDE BWOYFACE、kZmによるリミックスもやってくれたりして「ボスろうぜ」というKOJOEの掛け声通りに。最高だった。

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ライブ後、OLIVE OILのDJタイムで出演者によるフリースタイルが披露されていたんだけど、AKANEのフリースタイルが圧倒的にかっこよすぎてクラクラに。かっけえ~~~。

土曜日。やっとCardi Bのアルバム聴いた。何でもApple Musicのストリーミング記録を塗り替えたとか何とかで、もうめちゃんこかっこよくて、どうにでもしてくれ~~!って感じ。

ジュマンジ』(1995)鑑賞。ロビン・ウィリアムズの笑顔はいつ見てもまぶしい。

日曜日。というわけで早速『ジュマンジ / ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017)鑑賞。(多少ネタバレになります)最後、主人公が「現実に戻る必要があるのか?このまま二人で過ごさないか?」と恋人に語り掛ける場面、その恋人が「大丈夫、これから毎日こうやって過ごしましょう」と返すのが素晴らしい。そう、ぼくたちはいつもフィクションの世界に逃げ込むけれど、その世界が終わってしまったとしても、そのフィクションの中の世界はぼくたちの生きる現実と地続きなんだ!というメッセージがアツい。

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そして、F1世界選手権第3戦・中国GP。これほどまでに面白いレースが2週連続で続いていしまうとは。今年のF1は、面白いぞ。

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今回はとにかくレッドブルというチームの知力がモノを言ったレースだったのでは。そしてドライバー2人のうち、攻撃を決め切ったリカルドが勝った。フェルスタッペンはちょっと暴走しすぎなきらいが。2回もアタックに失敗するなんて・・・まあそこが彼の魅力であったりするわけで、嫌いにはなれないのだけれど。メルセデスは運に恵まれなさすぎで、フェラーリは作戦のポカをしすぎ。こんな奇跡のようなバランスで1年間進んでいってほしいものだ。中団勢は3戦終わってみるとコンストではマクラーレンがトップ。着実にポイントは稼いでる。ここの争いはここからもっと面白くなるだろうなあ。

↓最後に今週触れた作品のリスト↓

<音楽>

The Absence『A Gift for the Obsessed』(2018)

Awesome City Club『TORSO』(2018)

Between the Buried and Me『Automata I』(2018)

Cardi B『Invation of Privacy』(2018)

Cozz『Effected』(2018)

Creepy Nuts『クリープ・ショー』(2018)

Diplo『California -EP』(2018)

Disconnected『White Colossus』(2018)

The KinksThe Kinks are the Village Green Preservation Society』(1968)

Lil Yachty『Lil Boat 2』(2018)

Lil Xan『TOTAL XANARCHY』(2018)

Limited Express (has gone?)ロベルト吉野『Escape from the scaffold - EP』(2018)

Nym Lo『The Big Horse』(2018)

SOB x RBE『GANGIN』(2018)

S.P.C.『On The Flipside』(2018)

Stone Temple Pilots『Stone Temple Pilots』(2018)

剛斗『二十五念』(2018)

竹原ピストル『GOOD LUCK TRACK』(2018)

ときめき♡宣伝部『ときおとめ』(2018)

ユアネス『Crl+Z』(2018)

6ix9ine『DAY69』(2018)

<映画>

ロッキー3』(1982)

『007 / ドクター・ノオ』(1962)

ペンタゴン・ペーパーズ / 最高機密文書』(2017)

ジュマンジ』(1995)

ジュマンジ / ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017)

<書籍>

村上卓史『放送作家という生き方』(2017)

今週の事々(2018/04/02~08)

月曜日。何故か夢の中で手術をする羽目になって、自分の執刀医がKendrick Lamarだったところで目が覚めた。なんか嫌だった。でもDrakeはオペうまそう。なーんでか。

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この日はさすが新年度、Superorganism『Superorganism』、『ちはやふるー結びー』、宇多丸氏の新番組「アフター6ジャンクション」、そして後追いの宇多丸氏『ちはやふるー結びー』評、tofubeatsの「HARD-OFF BEATS」新作、乃木坂46新曲初オンエアと、とにかく濃いコンテンツたちを浴びつくし、疲れた。

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シリーズ完結編としては申し分ない出来なんだけど、尺的にどうしてもオミットされている部分があって、そこが非常にもったいない。3時間、あるいは5時間あればもっともっと掘り下げられたはずなんだよなあ・・・個人的には『上の句』>>『下の句』>>『結び』となってしまった・・・この手の映画としては他の追随を許さない出来であることは大前提として。あと賀来賢人の周防名人はめちゃくちゃよかった・・・。

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これ見るとtofubeatsがどれほど自分のやっていることに自覚的なのかがよくわかる。新シリーズが今から楽しみ。

NACK5『THE魂』にて宇宙初公開となった乃木坂46新曲「シンクロニシティ」。一度しか聞いていないけど、サビの力が強い曲だなあ。生駒のラストシングル。ジャケットとアーティスト写真も公開になって、MVが楽しみ。

TKda黒ぶち『Live in a dream!!』、期待外れ。テーマはありきたりで反復的だし、フロウ/ライミングもワンパターンで、リリックも希薄。正直1枚聴きとおすのもしんどい。音源で即興を越えられなければラッパーとしてどうなの?という疑問が。MUROやSTUTSといった豪華プロデューサー陣の持ち腐れ。

火曜日。ようやく漢のニューアルバム聴いた。彼にしかできない、いびつなラップスタイルと不動のメッセージ性。前の日に聴いたTKda黒ぶちとこうも違うが、どこが違うんだと聞かれると・・・?声や存在感というとても印象的な部分になってしまうなあ。でも全然違う。

水曜日。ついに始まった『Creepy Nutsオールナイトニッポン0』を聴く。う~ん。ラジオが大好きなのはわかるんだけど、そこまでヒップ・ホップを卑下しなくてもなあと思う。でもこれがニッポン放送のやり方で、何事も積極的に面白がっていくTBSラジオとは違うところ。あんまり聴かないかもなあ。でも番組中にOAされた新曲もいい感じでアルバムは楽しみにしよう。

Post Maloneのデビュー作『Stoney』(2016)、タイトル通り酩酊感あふれるメロウなヒップ・ホップ。夜の車中で聴きたいアルバム選手権上位に食い込んだ。

木曜日。The Beatlesの「ホワイトアルバム」を聴いた。初めて。これはやっぱすごい。「ロックの全部を試した」と評されるバンドだけあって、バリエーションもクオリティも段違い。これは次の「一気聴き」決まりっす。

金曜日。BAD HOPの新曲「Kawasaki Drift」、今年ベストチューンの登場。

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全員が全員ベストパフォーマンスでかっこいいったらありゃしない。特にT-Pablowの「川崎区で有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるか」というおそらく10年代を代表するパンチライン

そして乃木坂46の新曲にして生駒里奈のラストシングル「シンクロニシティ」のMVも公開。

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シンプルできれいなMV、という印象。衣装もまるでシンプル。フォーメーションや振付が特徴的。TV番組でのパフォーマンスやほかのカップリング曲のMVも楽しみ。

そしてTBSラジオで始まった宇多丸氏の「アフター6ジャンクション」、この日の放送でとりあえず初週が終了。もうすでに「面白さのインフレ」が起こりすぎてて、ちょっとやばい。「アフター6ジャンクション」3時間×5、「アルコ&ピース D.C. GARAGE」「ハライチのターン!」「菊地成孔の粋な夜電波」「山下達郎のサンデーソングブック」各1時間、「Creepy Nutsオールナイトニッポン0」1.5時間、「バナナマンバナナムーンGOLD」2時間、PUNPEEの新番組(ナイスチョイス!)「SOFA KING FRIDAY」0.5時間、Block.FM「INSIDE OUT」1時間、合計ぴったり24時間を日々の生活から捻出しなければならない。あーあ。暇な学生でよかったが、来年からどうしようか。

土曜日。バナナマン日村さん(「日村さん」という呼称は、別に知り合いとかいうわけではなくバナナマンが好きならば自然とそうなる呼び方)の結婚という嬉しいニュース。早速バナナムーンをタイムフリーで聴く。「ヒムペキ兄さん」ならぬ「シタペキ兄さん」による「東京ひとりぼっち~日村さんゴールインおめでとう Ver.~」に涙腺が緩む。粋なことをする男だなあ。ラジオに電話かけてきちゃうとんねるず貴さんをはじめ、SNS上にも芸人仲間から多くの祝福の声。本当に愛される人間なんだなあ。

最近、バナナムーンリスナーに子供が生まれて、「名前を考えてほしい」というお便りが来た時に、日村さんは「春太郎が良いんじゃない?」と勧めたんだけど、実際にその名前にしたというお便りが何週か後に来た時のこの人のリアクションが素晴らしかったんだよなあ。あの人の目尻を下げる優しい笑顔が目に浮かぶような音声だった。幸せになれよ!ソウル!

 批評誌ヱクリヲ Vol.7、『音楽批評のオルタナティヴ / 僕たちのジャンプ』読了。些細ながら音楽批評まがいのようなことをやっているぼくにとってはかなり刺激的だったとともに、このような音楽批評の場って全然ないよなあと愕然。ヒップ・ホップシーンでは最近「コミュニティの不在」が嘆かれているけど、そういう場ができてほしいなあと切に思う。

エクリオ vol.7

エクリオ vol.7

 

 

↓最後に今週触れた作品のリスト↓

<音楽>

The BeatlesThe Beatles』(1968)

DJ BULLSET『必殺仕事人 EP.』(2018)

ELLE TERESA『KAWAII BUBBLY LOVELY』(2018)

James TaylorJames Taylor』(1968)

ORANGE RANGE『Squeezed』(2006)

ORANGE RANGEORANGE RANGE』(2006)

Post Malone『Stoney』(2016)

Takaryu『Resources』(2018)

TKda黒ぶち『Live in a dream!!』(2018)

Tohji『9.97 EP』(2018)

Tom Misch『Geography』(2018)

Sagittarius『Present Tense』(1968)

Sunflower Bean『Twentytwo in Blue』(2018)

Superorganism『Superorganism』(2018)

The Voidz『Virtue』(2018)

The Weekend『My Dear Melancholy,』(2018)

a.k.a. GAMI『ヒップホップ・ドリーム』(2018)

サニーデイ・サービス『the CITY』(2018)

どついたるねん『どついたるねん』(2018)

智大『弐枚目』(2018)

<映画>

ちはやふるー結びー』(2018)

<書籍>

ヱクリヲ Vol.7『音楽批評のオルタナティヴ / 僕たちのジャンプ』(2017)

Superorganism『Superorganism』レビュー

日本初の24時間ヒップ・ホップ専門局・WREPの1周年記念ゲストということで、Chuck DがWREPに出演、Zeebraと共演したらしい。残念ながらWREPにはタイムフリー機能がついていないため、ぼくはその放送を聞いていないのだけれど、今日このアルバムを聴きながら思い出したのは何故かPublic Enemyのことだった。

Public Enemy『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』。1988年作。このアルバムによって彼らは一気にスターとなった。Chuck Dの政治的メッセージの色濃いラップももちろんのこと、Bomb Squadという制作部隊によってつくられるサンプリング・ミュージックの衝撃も大きかった。サウンドコラージュという形容がピタリとくるような、1曲の中にも複雑に多くの音が引用され、重ねられ、歪められ、ひしめき合っている。その音像がChuck Dのリリックをより遠くまで、より大きな速度をもって届けることの出助けをしたことは間違いない。

のちの人種差別発言騒動によってPEの活動は停滞する。それでもこのアルバムが色あせないのは、リスナーがChuck Dのリリックと同じくらい(もしくはそれ以上に)Bomb Squadの繰り広げる音の大冒険に心酔していることの証左ではないだろうか。

そしてこのようなサンプリング・ミュージックの出現以降、ポピュラー音楽のあり方は大きく変わった。引用の時代が始まった。アレンジの時代が、キュレーションの時代が、大いなる二次創作の時代が始まった。「オリジナル至上主義」はこの小さな島国ではまだ幅を利かせているが、結局は「みんながちょっとずつだけ違う」という逆説的な結末を招いている。

そして、このSuperorganism『Superorganism』。2018年作。『It Takes~』から30年。このアルバムもまた、大いなる音の冒険だ。でも彼らは黒人の権利を声高に主張もしなければ、ユダヤ人を差別する発言もしない。なぜならこのグループはすでに人種を超えて結成されている。インターネットで誰とでも繋がれる時代だぜ、人種なんかナンセンスだ。

 So just relax, oh just relax
Turn on, tune in, drop out if you can
And just relax, oh just relax
We're breathing in, breathing out, oh, oh

(だからただリラックスをして、リラックスをして

気分を上げて、ダイヤルを合わせて、できるなら逃げ出して

そしてリラックスをして、リラックスをして

私たちは息を吸って、吐いてる)

「Relax」より

このサビ部分では都会の喧騒、車のクラクションがサンプリングされている。そしてそれをかき消すように歌われるのがこの歌詞だ。何とも痛快ではないか。始まりと終わりには炭酸飲料の缶を開ける音が使われている。疲れ切った世界をあざ笑うように、彼らの音楽は爽快だ。

この曲だけを聴けば、彼らの音楽の中で使われるサウンドコラージュはこの音楽を日常に落とし込むことが目的のように思われるが、実はその限りではない。

「Nai's March」の中で日本の電車の発車音と共にサンプリングされているのは、なんと緊急地震速報

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映画『ゴジラ』の音楽を担当した伊福部昭の甥、伊福部達が作曲した日本人ならば誰もが聞いたことのある、あのインパクトのあるチャイム音。日常が非日常にひっくり返ってしまったあの日、あの瞬間に流れた音。この音によって(少なくとも日本人は)日常から断絶される。ボーカル・作詞を務めるのは日本人であるオロノ。東日本大震災を題材にしたこの曲の歌詞をぼくはまだかみ砕けていないけれども、日常からの断絶、そしてそこからの復興が描かれたポジティヴな詞だと解釈している。

 Tokyo, oh Tokyo
You're too tall of a truth to take in
Since we're grounded in a daydream
Can't wait 'til we meet up again

(東京、東京よ

受け入れるには巨大すぎる真実よ

私達は白昼夢の中

また会えるのが待ち遠しいわ)

「Nai's March」より

 「Everyone Wants to be Famous」「SPRORGNSM」など、社会を皮肉った詞も多いけれど、元になっているのはポジティヴな厭世感覚ともいえるもので、それは1曲目の歌詞に表れている。

 We know you feel the world is too heavy
But you can turn it all around if you want

(世界があなたにとって息苦しいのはわかってる

でもそれすらひっくり返せる、あなたがそう望みさえすればね)

「It's All Good」より

 Public Enemyから30年。サウンドコラージュは時代を映す鏡であり続けている。音の冒険は続く、キュレーションの時代は続く。我々が個人であることをやめ、『Superorganism』になってしまうまでは。

(訳は筆者による拙訳)

今週の事々(2018/03/26~04/01)

月曜日。大学の卒業式。中学校・高校の卒業式とは違い「今生の分かれ」の雰囲気が無いからか、ポジティブなバイブスにあふれているのが大学の卒業式だ。また会えることが確約されているうえでの別れの儀式。そこにはセンチメンタルなものは一切ない。結局朝まで飲み明かしてしまった。あーあ。

火曜日。いまさらながらR-指定ってめちゃくちゃラップがうまいんだなということがよくわかるCreepy Nutsの新曲。

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メジャーに行ってから迷走してた分、この回帰は本当にうれしい。

この日は面接があったのだが、てんでダメだった。腹いせに納豆にキムチとごま油かけて食ってやった。ざまあみろ。でもスーツがパンパンだったし、痩せることを決意。

乃木坂46『僕だけの君~Under Super Best~』を聴いて、乃木坂46一気聴きシリーズ無事終了。いやあ本当にね、いいグループですよ。

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菊地成孔の粋な夜電波 シーズン1-5 大震災と歌舞伎町篇

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン1-5 大震災と歌舞伎町篇

 

大好きなラジオ番組のラジオ本。聴いてもよし、読んでもよし。いややっぱり聴くのが一番かな。 

水曜日。03 Greedo『The Wolf of the Grape Street』(2018)、最近USヒップ・ホップの新譜を追えてなかったのもあるけど久々のヒット。

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国府達矢『ロックブッダ』を国府達矢が誰かも知らず聴いたのだが、こいつぁすげえアルバムだ。

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むしゃくしゃしたときの悪い癖で、本をたくさん買うっていうのがある。この日はそれが一斉に届いてちょっとした虚脱感を得た。でも白石麻衣伊藤万理華の写真集を見たらそんな気分一瞬で吹き飛ぶ。

白石麻衣写真集 パスポート

白石麻衣写真集 パスポート

 
伊藤万理華写真集 エトランゼ

伊藤万理華写真集 エトランゼ

 

写真って一回見ただけじゃそこに秘められているエネルギーの100分の1くらいしか引き出せてない気がする。だから何回でも見れるんだろうなあ。優れた文章もそう。写真的だったり映像的だったり音楽的だったり、文章以外の要素がすぐれていたら何度でも読みたくなる。

やっとこさ『15時17分、パリ行き』を鑑賞。前作『ハドソン川の奇跡』は「金がかかったアンビリバボーじゃねえか」としか思わなかったけど、今作は一味違って、「なんか不思議な映画」には仕上がってる。でもやっぱりなんだか、映画を撮ることへの情熱が本当にあるのかな?と思ってしまうくらいあっさりした映像で、100%大好きな監督ではなくなってきたかな。

blt graphの最新号、渡辺梨加欅坂46)が表紙なのをずっと買うの我慢してたんだけど、ついに買っちゃった。

blt graph. vol.29 (東京ニュースMOOK)

blt graph. vol.29 (東京ニュースMOOK)

 

 もう、どんどん日常がアイドルにむしばまれている気がして、ものすごく幸せです。

木曜日。沖縄発の「ボーカル&ダンスグループ」、Chuning Candyのデビューシングル『Dance with me』がいい感じ。露骨にK-POPを意識してますが、クオリティの高い歌とダンスとヴィジュアル。ハーフ顔のLILIちゃんが目立ってかわいい。

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そして微妙に改名したJABBA DA FOOTBALL CLUBの新EPが良い。前作『OFF THE WALL』は正直すごくビミョー(ってことはダメ)だったんだけど、今回はいい。フロウが進化しつつ、RIP SLYMEKICK THE CAN CREWスチャダラパーなど偉大な先輩方のクルーの空気感も身につけたのか。特にTempalayの「革命前夜」をさっそくサンプリングしたこの曲なんか。

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YENTOWNのkZmのソロアルバムは、今の日本のヒップ・ホップ界の若い世代の才能が集まったすさまじい作品。Awich、5lack、PETZ、BIM、Chaki Zulu、jjj、MVにはSpikey Johnも関わってて完全にロン。上がりですわ。

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日本のXXXTENTACIONの誕生か?

「結び」を見に行くためにまず『ちはやふる 上の句』(2016)鑑賞。これは、これは、よい・・・登場人物全員が輝く、見事な青春劇。こんなのがあと2本も見れるんですか。

金曜日。タマフル最後の課題映画『リメンバー・ミー』鑑賞。やっぱりピクサーは文句を言おうにも言えない作品を作ってくるなあ。「家族」か「夢」かという問題に対して、必ずしも一元的な見方のみを提供するのではないという作り。そして特に序盤はこれでもかというくらい残酷で、家族という闇がこれでもかというくらい描かれてる。だからこそ後半にかけての展開が効いてくるわけで・・・。ガキんちょの隣でビービー泣いてしまった。

でもそれにしても、アニメーション映画の吹き替え版によくあるのが、劇中の文字情報まで日本語になっているってやつ。別に駄目だとは言わないけど、せめてフォントを周りのデザインと合わせるくらいはやってほしい。全部が全部機械的なゴシック体なのはいただけない。そこで一気に冷めちゃうから。結構大事だと思うんだけど、どうなの?

土曜日。『ちはやふる 下の句』(2016)鑑賞。相変わらずよくて、松岡茉優が何度も持っていく。サイコー。

池袋の油そば名店「ドリルマン」の油そばがハチャメチャにおいしい。最後は煮干しだしのスープ割まで楽しめる。

そしてそして、とうとう『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』最終回。すぐに新番組がはじまるからそこまで悲しくはないものの、感慨はひとしお。最終回っぽいけど最終回っぽくない、とても「らしい」放送だった。お疲れさまでした。これからも文化を愛する人々の「部室」であり続けてほしいものだ。帯だから毎日聴くのは難しいかもしれないけど、とりあえず月曜はラジオにかじりつくよ!

日曜日。そして月も変わり4月に。

4月の旧譜は1968年特集。1枚目は盲目のソウルシンガーClarence Carterの一枚。

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それでは最後に今週触れた作品のリスト↓

<音楽>

Alice Cooper『Killer』(1971)

AngraOmni』(2018)

Barren Earth『A Complex of Cages』(2018)

Chuning Candy『Dance with me』(2018)

Clarence Carter『This is Clarence Carter』(1968)

DJ OKAWARI x Emily Styler『Resotre』(2018)

Escape the Fate『I Am Human』(2018)

Fall Out Boy『MANIA』(2018)

The fin.『There』(2018)

JABBA DA FOOTBALL CLUB『FUCKING GOOD MILK SHAKE - EP』(2018)

Johnny Winter And『Jonny Winter And』(1970)

KANA-BOON『KBB Vol.1』(2018)

kZm『DIMENTION』(2018)

MC松島『IN THE HOUSE』(2018)

Nulbarich『H.O.T.』(2018)

ORANGE RANGEMusiQ』(2004)

ORANGE RANGE『NATURAL』(2005)

Steady B『What's My Name』(1987)

Tony Braxton『Sex & Cigarettes』(2018)

Trouble『Edgewood』(2018)

03 Greedo『The Wolf of the Grape Street』(2018)

国府達矢『ロックブッダ』(2018)

さとうもか『Lukewarm』(2018)

スキマスイッチ『新空間アルゴリズム』(2018)

菅田将暉『PLAY』(2018)

東京スカパラダイスオーケストラ『GLORIOUS』(2018)

乃木坂46『いつかできるから今日できる』(2017)

乃木坂46『僕だけの君~Under Super Best~』(2018)

<映画>

15時17分、パリ行き』(2018)

ちはやふる 上の句』(2016)

リメンバー・ミー』(2018)

ちはやふる 下の句』(2016)

<本>

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン1-5 大震災と歌舞伎町篇』(2017)

白石麻衣写真集 パスポート』(2017)

伊藤万理華写真集 エトランゼ』(2018)

cherry chill will.『RUFF, RUGGED-N-RAW』(2018)

一気聴きのあとがき:乃木坂46編『能條愛未へのラブレター』

ぼくと君は、ぼくが君を知るはるか前に出会っていた。

「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」、2016年7月30日放送。その日の映画時評は『葛城事件』、その日の特集は「夢で見て好きになってしまった人特集」。家族という地獄を切り取った最高であり最低の映画の評論の後、タマフルらしい泥臭い特集コーナーの前の15分間、DJコーナー「ディスコ954」に彼女は登場した。

乃木坂の、なのか、能條愛未の、なのかはさておいて「の」の字も知らなかったぼくにとっては、退屈な15分間だった。それでも、かくしてぼくたちは出会ったんだ。

バナナマンが好きなぼくにYouTubeが「乃木坂工事中」の動画を勧めてきたのはそれから1年と半年後、今年の1月のことだった。君の名前は憶えやすかったし、何より君は輝いて見えたんだ、ぼくの目には。

ぱっちりと見開いた眼は初期こそ不安定さを醸し出していたが、大人になった君の眼は美しい。少し低くてハスキーなしゃべり声はなぜか僕に安心をくれた。「吊るしやがって」「そう、ケーキ」「割ってみる?」「引き寄せの法則を、信じるんだ」などのパンチラインには食らったし、髪をひょいっとするその仕草を見るたびに失神を禁じえなかった。比喩じゃないよ。ちょっぴり恥ずかしいけれど、アイドルに恋をしたのはこれが初めてなんだ。

シングル選抜メンバー入り、たったの2回。アンダー楽曲でのセンター経験、なし。握手会はいつも売り切れない。調べれば調べるほど、人気メンバーではないことがわかる。「乃木坂好きなんだ」「誰が好きなの?」「能條愛未」「誰?」という会話を何回したか、数えるのはやめた。

君は真ん中にはいないから、ぼくはいつでも君を探すことから始めなければいけない。でもそれがぼくの君への愛を深めているのだとすれば、そんなにいいことはないかもしれない。「僕だけの君」だなんて贅沢は言わないけれど、せめて「ぼくの君」でいてほしい。

P.S. 君に会いに行く勇気がないから、君がぼくにそれを渡し忘れているのであれば、それをくれないか?

今週の事々(2018/03/19~03/25)

月曜日。dodoの新EPがよい。特に「rockanroll」にはアンガールズ田中も出てきたりリリックが単純に面白い。

就活で数学の問題を解く機会が増えたのだが、ベン図レベルの簡単な問題ですら溶けなくなっていて、学習の持続の大切さを痛感する。チャート式買って勉強しようかな。数式を「写経」するだけでも楽しそう。

火曜日。乃木坂46裸足でSummer』(2016)が良い一枚だった。今を時めく齋藤飛鳥の初センター曲。

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白石麻衣の初ソロ曲「オフショアガール」、アンダー曲「シークレットグラフィティ」もいい感じなんだなこれが。

火曜日水曜日はお酒を飲んでいた。

木曜日。一日中車で移動する機会があったので久々にカーステレオで音楽をじっくり聴いた。DJ RYOWの『NEW X CLASSIC』(2018)が素晴らしい。BAD HOPから唾奇まで、いいメンツがそろってる。SOCKSの「YouTuber」がサイコー。

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XXXTENTACION『?』も大傑作。このひとはどこまで広がっていくのか・・・

金曜日。久々にゆったりできた日。ドイツのメロデスバンドNight In Galesの新譜が最近聴いたメタルの中でもかなり上位に入る出来。

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そして昨年見逃した『ドリーム』(2017)鑑賞。まさに文句のつけようのない、鉄板の良作でした。よいよい。

新譜ばかり聴いていたのでそろそろルーティンを復活させねばと思い、今月のテーマである1971年作、Leaf Hound『Growers of Mushroom』を聴く。とても力強いブリティッシュロック。なぜこれほどまでに知名度が低いのか?

橋本奈々未卒業シングル『サヨナラの意味』(2016)、カップリングも豊作の良シングル。真夏さんリスペクト軍団による「二度目のキスから」が素晴らしい。

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土曜日。昼には松屋系カレーチェーン「マイカリー食堂」でロースかつカレーを食す。値段の割にかなりおいしいのでおすすめ。そのあとは銀座という慣れない街に繰り出した。「〇勝(まるかつ)」という親子丼専門店の親子丼に舌鼓をうち、神保町の「さぼうる」でお酒を飲んだ。用事と用事の合間に乃木坂46時間テレビとF1の予選をチェックするというまあまあ忙しい一日。

 日曜日。風邪気味。

ついにF1の2018シーズンがオーストラリアで開幕。ハースの自滅は本当に残念だが、それでレース展開にツイストが生まれたのが不幸中の幸い。オフシーズンの間ホンダを見捨てたマクラーレンを執拗にバッシングしていた日本のF1メディアの皆様は元気だろうか?

乃木坂46の「一気聞き」も終盤で、代表作と言ってもいい『インフルエンサー』はカップリングまで充実していてすごい。

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乃木坂46の現時点での最新アルバム『生まれたから初めて見た夢』(2017)を聴く。Apple Music上のスペシャルエディションは全種類の収録曲を網羅しているので、33曲2時間22分という構成もへったくりもないつくり。そもそもアルバムを何バージョンもリリースしている時点でキュレーションを放棄しているように見える。秋元ワークスにそんなことを期待してもしょうがないが。

水野祐『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』(2017)読了。

法のデザイン

法のデザイン

 

 「規制」というイメージでしか法をとらえてない我々の認知を転回させる刺激的な一冊。法という荒野の境界線に生きるアウトサイダーたちの考え方からは得るものが大きかった。

最後に今週触れた作品のリスト↓

<音楽>

DJ RYOW『NEW X CLASSIC』(2018)

dodo『pregnant - EP』(2018)

GRADIS NICE & YOUNG MASON『L.O.C. -Talkin' About Money-』(2017)

Leaf Hound『Growers of Mushroom』(1971)

Night In Gales『The Last Sunsets』(2018)

PAELLAS『Yours』(2018)

The Roots『Game Theory』(2006)

SOUL SCREAM『The Positive Gravity~案とヒント~』(1999)

XXXTENTACION『?』(2018)

Yo La Tengo『There's a Riot Going On』(2018)

雨のパレード『Reason of Black Color』(2018)

乃木坂46『それぞれの椅子』(2016)

乃木坂46裸足でSummer』(2016)

乃木坂46『サヨナラの意味』(2016)

乃木坂46インフルエンサー』(2017)

乃木坂46『逃げ水』(2017)

乃木坂46『生まれてから初めて見た夢』(2017)

<映画>

『ドリーム』(2017)

<本>

水野祐『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』(2017)

『ブラックパンサー』

www.youtube.com

2018年3月1日公開、134分

2016年公開の「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場した新たなヒーロー、ブラックパンサーを主役に描くアクション映画。アフリカの超文明国ワカンダの若き国王ティ・チャラが、漆黒のスーツと鋭い爪を武器に戦うブラックパンサーとして活躍する。絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」が産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で、世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父のティ・チャカの死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始めるが……。主人公ブラックパンサー=ティ・チャラ役はチャドウィック・ボーズマン。監督を「クリード チャンプを継ぐ男」のライアン・クーグラーが務め、同作で主人公クリードを演じたマイケル・B・ジョーダンが、ブラックパンサーを追い詰める強敵エリック役で出演。(映画.comより引用)

 

この映画、Kendrick Lamar率いるTop Dawg Entertainmentがサントラを担当するとなれば見ないわけにはいかない。3月1日の封切と同時に劇場に歓喜の顔で走りよる群衆をよそに、ぼくは『アイアンマン2』(2010)以降の13作品を見ることに忙しかった。そしてついに、ぼくは劇場に足を運ぶ権利を得た(とはいえ、今作はブラックパンサーの単独映画1作目ということで、全然MCU見たことないよ!という人でも十分楽しめるのだが)。ぼくは2PacのTシャツを着て(2Pacと「ブラックパンサー党」の関係についてはご自分で調べていただきたい)勇んで劇場に向かった。

この映画を監督であるライアン・クルーガー史から読み解いた見事な批評を宇多丸氏が行っているので、公式HPにある書き起こしを是非読んでみてほしい。ぼくは残念ながら『クリード/チャンプを継ぐ男』(2015)をまだ見れていないので、その辺の話は一切できない。

www.tbsradio.jp

そしてこれまた素晴らしいFUZEによる記事の中でも指摘されていることだけども、この『ブラックパンサー』という作品が単体の映画作品としてみた時に傑作と言えるかどうかには疑問が残る。

www.fuze.dj

なんだか人の評論を紹介するばかりになってきてしまったが、公開から2週間以上もたっていればこうなってしまう。

 

でもぼくがこの映画を見て一番感じたのは、ぼくたちがこの映画に「叱られている」ような気分になったということだ。

最後の演説のシーンの「賢者は橋を架け、愚者は壁を築く」と言う言葉に顕著なように、この映画は単なるアメコミ映画ではなく、明らかにトランプ以降/ブラックライヴスマター以降のエンターテインメント作品であるということを意識して作られたものである。

そのような映画の中で最近公開されたものとして頭に浮かぶのは、実際に起きた暴動を描いた『デトロイト』、街自体は架空であるもののミズーリ州という土地の雰囲気を生かして極めてフィクショナルであると同時にリアリズムを感じさせる作品であった『スリー・ビルボード』が挙げられる。その他にも『ストレイト・アウタ・コンプトン』は完全に伝記映画であるし、恥ずかしながら未見であるが『ムーンライト』も基本的にはリアル志向の物語であると理解している。今作の監督ライアン・クーグラーの長編デビュー作『フルートベール駅で』(2013、申し訳ないが未見)も、警官による暴力をドキュメンタリックに撮った作品であるらしい。とにかく、黒人をはじめとするマイノリティのエンタメ作品というのは常に「史実」が根底にあり、「リアリティ」を武器として作られてきたのである。

そこにきて、アメコミのような純度100%フィクションのエンターテインメントというパッケージにおいてこのようなトランプ以後/BLM以後の作品を作ることの意義とは何か。それを考えた時に、ぼくはこの映画に「叱られている」と感じたのである。

フィクションである、ということはそれは事実ではないことを意味する。我々が住む世界にはブラックパンサーのようなかっこいいヒーローは不在であるし、ワカンダのように現在の問題を解決するために、弱者を救済するために献身的に貢献してくれる素晴らしい国なんて存在しない。悲しいかな、それが現実である。ノンフィクションである。

上記のFUZEの記事の中ではこの映画の結論を「中庸だ」と非難気味に評しているが、フィクションというものはそういうものではないか。どちらか一方にしか取れないフィクションはつまらない。フィクションの醍醐味は、体験後にノンフィクションに引き戻されることにある。ホラー映画は家に帰ってからもその霊が自宅にいるのではと思う(いないとはわかっていながら)からこそ楽しめる。「お化けはいますよ」と大真面目に伝えられるのでは、映画を楽しむどころではない。

この映画は、フィクションがフィクションたる純然たる力によってぼく達を叱る。この世界は、これほどに荒唐無稽で現実離れなヒーローを必要とするほど狂っていてゆがんでいて、助けを必要としているのかと。ヒーローなんかいないんだから、自分たちでどうにかしろよ、と。

この映画を見た我々は帰路、腕をクロスするあのしぐさをしながら、現実に絶望する。ブラックパンサーもワカンダもないこの世界で、自分に何ができるのか、何をするべきなのかを自問しながら、現実に引き戻される。このようなフィクションの愉しみをこれまでのマイノリティ映画よりも高い純度で提供してくれることに、大きな喜びを感じようではないか。

MCUは超人気シリーズであるがゆえに、日本にはそのような絶望と自問を経験した人数が公開4日だけでも30万人以上いる。アメリカにはもっといる。世界にはもっともっといる。そのことに、大きな喜びを感じようではないか。