なんでもかんでもはむり

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KEN THE 390『リフレイン』レビュー

リフレイン

リフレイン

 

 ここ数年は「若手フックアップマシーン」「コラボ曲大将」と成り下がってた印象のあるKEN THE 390。事実2016年にリリースされた前作『真っ向勝負』は1曲を除いてすべての曲にゲストがいるというそこそこ異様な作品になっていて、もはやこの人は一人では曲を完結することができないのでは?なんて思わせてしまうほどの出来だった。

それでいて「フリースタイルダンジョン」では誰よりも的確な審査・コメントをするもんだから、「ああ、この人はラップは大好きなんだけど力量が追い付いていないんだな」という烙印を押していた人も多そう。事実、ぼくもそうだったし。

しかしそんな状況に本人も少なからず危機感を覚えていたのか、今回のアルバムはちょっと様子が違う。

この曲が公開された時にすでにその予感はあったんだけれど、今回のアルバムは現行USのトレンドをいくらか取り入れた(有り体に言えば)ものすごく「イマ風」な作風にスイッチ。そしてそれが見事に彼にマッチしてる。若手を次々とフックアップしてきた彼だけど、彼らからもらった刺激がようやく形になり始めてるのかも。

彼のラップでいまいち物足りない点として「どっかで聞いたことがあるような韻をどや顔で踏む」という点があるんだけど、それも歌モノのラップになると不思議と気にならなかったりする。どう考えても活路はこっちだ!

今回は特にトラックもめちゃくちゃ良いんだけど、表題曲を含む5曲に参加しているbaufuzzというトラックメイカーが良い。Rude-αの最新EPにも参加しているみたいなんだけど、なにせGoogleでもTwitterでも「気鋭のトラックメイカー」という情報以外出てこない。もっと注目されてもいいのに!

数少ない客演の中でもDOTAMAとサイプレス上野フューチャリングした「調子悪い」はかなり突き抜けてよい。普段は「きれいごと」みたいなラップをする彼だけど、こういう泥臭くて面白い曲もやるとこんないい感じになるとは。

DOTAMAこそが「次世代の般若」なんかじゃないかと思ってるんだけど、この曲とかわかりやすくそう。いいぞ、いいぞ~!

中堅を通り越してだんだんベテランの領域に入ってくるキャリアだと思うんだけど、ここにきて新しくて、それでいてめちゃくちゃかっこいい「答え」を出したと思う。ほんと、この調子でお願いしますよ!

『犬猿』


吉田恵輔監督が描く壮絶な兄弟&姉妹ゲンカ…『犬猿』予告編

2018年2月10日公開、106分

「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔が4年ぶりにオリジナル脚本でメガホンをとり、見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹を主人公に描いた人間ドラマ。印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・金山和成は、乱暴でトラブルばかり起こす兄・卓司の存在を恐れていた。そんな和成に思いを寄せる幾野由利亜は、容姿は悪いが仕事ができ、家業の印刷工場をテキパキと切り盛りしている。一方、由利亜の妹・真子は美人だけど要領が悪く、印刷工場を手伝いながら芸能活動に励んでいる。そんな相性の悪い2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させ……。和成役を「東京喰種 トーキョーグール」の窪田正孝、卓司役を「百円の恋」の新井浩文、由利亜役をお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子、真子役を「闇金ウシジマくん Part3」の筧美和子がそれぞれ演じる。(映画.comより引用)

 吉田恵輔監督の『さんかく』を宇多丸氏がラジオでべた褒めているのを聴いてこの監督の存在を認知した次第でありますが、2016年の『ヒメアノ~ル』は漫画原作とはいえ「いや~な空気感」をその臭いが分かるくらいのリアル感で描いていて、ちょっとものすごい作品だったしこの監督すげえなっていう印象が残った。

そんな吉田監督が再びオリジナル脚本で映画を製作したのがこの作品。これがまた素晴らしい脚本と演出で、「いや~な」(褒めてますよ)作品に仕上がってます。

この物語はタイトル『犬猿』が示す通り兄弟と姉妹のそれぞれの関係性のお話なんだけど、この関係性を浮きだたせるために一つ仕掛けてあることに気がついた。それは、この物語に「絶対的な座標点」が与えられていないことである。

劇中に2度富士急ハイランドが出てくる以外は、場所を示すアイコンが一切出てこない。兄・卓司が住んでいる高級マンションは東京の六本木あたりのような雰囲気があるけれども、オープニングで弟・和成がヤクザに絡まれている時に「おい、その人卓司さんの弟さんだぞ」と言われるあたり、なんだか人間関係のコミュニティが極めて狭い田舎を連想させる。その他にもこの兄弟が極めてフランクに実家と行き来をしていたり(田舎なのか?)、それでも妹・真子は極めて細々とした芸能活動をしていたり(都会じゃん)、でも登場人物の多くが車で移動していたり(あれ、田舎じゃん)、最後の最後までこの物語が日本のどこで起きているのかが一切わからないままである。つまりこの物語は関係性を描くという上で極めて「相対的な」ものであり、「絶対的な」場所とは相性が悪いということで取られた戦略なのではないか、と勘ぐってしまう。

それが意図的なものであれ、脚本上そう処理をするしかなかったのであれ、それがこの物語をより現実から「浮遊」指せているのは間違いない。それでもこの登場人物たちに愛らしさを感じてしまうのは、会話の妙を空気感を含めてこれ以上ないくらいリアル(もちろん映画なのでそれは作られた「リアル風」なのだが)に人々が動くからであろう。

観客の予想を超えて登場人物たちが動き回る『スリー・ビルボード』とは対照的に、この映画の中では観客が思う通りに登場人物たちが衝突したり、堕落したり、怒ったり、狂ったりしていく(あの冒頭の仕掛けだけは驚かされたが)。そしてこの映画はその「思った通り」を楽しむ作品だと思う。だってそれがものすごくリアルだから。「こういう時めっちゃ惨めになるよね!」とか「こういう時って実はうれしいよね!」とか「こういう親戚のおじさんいるよね!」とか、本当に共感を覚えるような場面ばかりだし(だから冒頭の仕掛けは実はちゃんと映画のテーマ的な部分と呼応しているのだ)、その共感を通り越して「お前はこういう風に見えている!」という現実を突きつけられたりする。よくできたエンターテインメントだ。

主要な登場人物は全員ナイスキャスティングだし、それぞれ個性を発揮した見事な演技。特にニッチェの江上敬子はもともと女優志望であったこともあるのか堂々とした存在感。芸人芸人したコメディパートもなく、きちんと映画の中の関係性や空気感をつかったギャグパートで要所要所で笑いをもっていってた。こういうコメディエンヌが日本映画界にも出てきたのがうれしい。日本のメリッサ・マッカーシーになってほしいと心の底から思うよ。

僕が立川で見た時は平日のレイトショーとはいえ10人以下と前々人が入ってなかったので、是非!是非に見てほしい映画。

今週の事々(2018/02/16~18)

今までやってきたブログをリセットしてこのブログをやろうと思い立ったのが今週の金曜日の深夜。タイトルはなににしようかな~と思ったけれど思いのほかすんなり決まった。やっぱりなんでもかんでもはむり、だよ。やりたいことだけをやりたいだけ。そういう生き方をしよう。

この「今週の事々」では、その週を振り返って、「あれがよかった、これがよかった」みたいな話を書きます。毎週日曜公開予定。

そんな金曜日は久々に映画館に行って、『スリー・ビルボード』を鑑賞。

iga.hatenablog.com

記念すべき初レビュー記事となった。凄まじい映画だったので皆さんも是非。

余談だけど、ぼくは最近東大クイズ王の伊沢拓司が編集長を務めるメディア「Quiz Knock」にドはまりしていて、知識を身につけたい欲が史上最高値を更新している。だからこの日も本屋に立ち寄り、『文藝春秋オピニオン 2018年の論点100』を購入。どんなことを聴かれても答えられる大人になりたいんだぼくは。

文藝春秋オピニオン 2018年の論点100 (文春MOOK)

文藝春秋オピニオン 2018年の論点100 (文春MOOK)

 

QuizKnockはYouTubeチャンネルが本当に面白いから見て。特に「限界しりとり」シリーズは圧巻。東大生のボキャブラリーに驚くこと間違いなし。

そして空けて土曜日。本当にたまたま聴いたこのアルバムが本当に素晴らしかった。

iga.hatenablog.com

『ブラック・パンサー』の公開が3/1だけど、それまでにどうにかしてMCUを全部見ていしまいたくて、この日は『マイティー・ソー』を鑑賞(『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『アイアンマン2』は鑑賞済み)。やっぱりクリス・ヘムズワースのトボケ顔は最高だなあといいつつ、でも戦闘シーンはちょっとダサい。

日曜日も、何もない休日を満喫。SCANDALの新作、前作『YELLOW』より全然よい。「ミッドナイトシティ」「ショートショート」といったロック色薄めの曲がお気に入り。こっちじゃないともう生き残れなくない?

www.youtube.com

 こういう曲はもういいからさ。

 部屋の掃除をしながら、PCがほしいなあと思う。Mac Bookでもいいし、iMacでもいいし、でもでもiPadも欲しいよなあ、とかいろいろ考えたんだけど、それ以前にお金がないんだった。残念。

魔女の宅急便』を鑑賞。理由は単純、見たことなかったから。良い人がたくさん出てくる、非常にハートウォーミングな1作でした。子供のころに見ておくべきものだけど。

最後に今週触れた作品のリスト↓

<音楽>

Car Seat Headrest『Twin Fantasy』(2018)

De La Soul『3 Feet High and Rising』(1989)

jinmenusagi『ME2!』(2013)

Machine Head『Catharsis』(2018)

Saxon『Thunderbolt』(2018)

SCANDALHONEY』(2018)

SHISHAMOSHISHAMO 3』(2016)

SiR『November』(2018)

Snowboy『Ritmo Snowboy』(1989)

KICK THE CAN CREW『VITALIZER』(2002)

<映画>

スリー・ビルボード

『マイティー・ソー』(2011)

 『魔女の宅急便』(1989)

Car Seat Headrest『Twin Fantasy』

Twin Fantasy [帯解説・歌詞対訳 / 国内仕様輸入盤 / 2CD] (OLE13472)

Twin Fantasy [帯解説・歌詞対訳 / 国内仕様輸入盤 / 2CD] (OLE13472)

 

17歳の時に曲作りを始め、Bandcampで驚異のダウンロード数を記録したのをきっかけに、メディアやファンの間で話題となり、以降〈MATADOR RECORDS〉から二枚のアルバムをリリースし、順調にキャリアを築き上げているカー・シート・ヘッドレストことウィル・トレドが、2011年にBandcampでリリースした『Twin Fantasy』を、“再構築&再レコーディング”し、装いも新たにリリースすることを発表した。(indienativeより引用)

 単純に「Pitchfork」で「Best New Music」に取り上げられていたから、

という理由で聴いてみたこの作品が、本当にものすごくよかった。

 ぼくは普段ヒップ・ホップだったりヘヴィメタルだったりを聴いて「サイコーだー」と叫んでいるような種類の人間で、インディー・ロックはあまり詳しくはない。勉強中である。

そんなぼくでも、この作品は心ゆくまで楽しめた。The Strokesを思わせるようなローファイなサウンド、切なさを湛えたメロディーライン、そしてなによりもリズムの引き出しの多さに驚かされる。71分という長い作品で、13分を超える長い曲も収録されているのに、一切飽きることなく何周もリピートしてしまった。

この曲が特にお気に入り。わかりやすく、シンプルに、とてもいい曲。素朴な才能。いやあ、良い。

『スリー・ビルボード』


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

2018年2月1日公開(アメリカ本国では2017年11月10日に公開)、115分

 <映画について>

2017年・第74回ベネチア国際映画祭脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得したドラマ。米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な広告看板を設置する。それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。娘のために孤独に奮闘する母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルら演技派が共演。「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」のマーティン・マクドナー監督がメガホンをとった。(映画.comより)

 

 最近は忙しくてできていなかった映画鑑賞活動を再開。TOHOシネマズ府中にて鑑賞。

今年度のアカデミー作品賞に『ダンケルク』『ゲット・アウト』などと並んでノミネートされている作品だ。

予告編を映画館で見た時は、「また黒人差別系の実話ものか」と思ったものである。『デトロイト』を見に行った時だったし、合わせて流れていた予告編がクリント・イーストウッド最新作『15時17分、パリ行き』だったのだから、脳が無意識に発生させるバイアスというものは怖いものだ。

でもこの映画は決して実話をもとにして作られたものではないことは、映画を見始めればすぐにわかることだ。登場人物はみな誇張しすぎなくらいにキテレツだし、アメリカ南部らしい<ムラ>性がこれでもかというくらい色濃く描かれている。

さらに物語がかなりのハイペースでずっと進行していくという作りで、絶えず新しい展開が画面上で展開されていくという非常にフィクショナルなつくりになっている。監督を務めたマーティン・マクドナーがもともと劇作家であったことを鑑賞後に知り、思わず膝を打った。脚本の力がとにかくものすごい、この映画は。アカデミーでは脚本賞はほぼ確実なのでは?

決して映像的にすごいことをやっているわけではないのに、脚本の面白さ一発だけで「なんだかすごいものを見た」と思ったのは久しぶりだ。鑑賞中にデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』っぽいなと思っていたら、なんと物語の舞台はどちらもミズーリ州だというではないか。この土地が持つ息が詰まるような閉塞感と、人間のいくらか醜い部分があらわになるこの二つの物語には、ミズーリ州という舞台設定が必要不可欠だったのだろう。日本で言うとどこだろうか、などと思ったが日本にこれほど「イヤ」な印象が強い土地はない。

鑑賞後誰もが印象に残るであろう、暴力警官・ディクソン。『デトロイト』で同じく極悪の警察官を演じたウィル・ポールターはもはや根っからの悪人にしか見えないほどの凄まじい演技をしていたのだが、この映画の悪役警官を演じるサム・ロックウェルはどこか愛嬌のある、憎めないキャラクターをこれまた見事に演じている。彼の恋愛事情については恥ずかしながらパンフレット内の町山智浩氏の解説で初めて気がついたのだが、そのあたりも含めて非常に奥行きのあるキャラクターである。物語の最初と最後でこれだけ印象が変わるのがすがすがしい。

主人公である母親・ミルドレッドを演じたフランシス・マクドーマンドについても書かねばなるまい。これほど閉鎖的で、どろどろとした沼地のようなミズーリの街において、彼女だけがひたすら<動>のオーラ、そして罵り言葉を発し続けている。それがそのまま周囲の人物に伝染していく様は痛快。

 話は二転三転するし、悪と善の境界線も非常にあいまいなこの映画だけど、見ていて「?」となるところは一つもない。それほどの脚本の出来が素晴らしいし、演出・演技のクオリティがとても高い。『デトロイト』を見た時に今年ベスト級だなと思ったのだが、早くもそれが更新されてしまった。あっぱれ。

 

いが

ブログの閉設と開設

今日の夜、映画『スリー・ビルボード』のエンドロールを見ながら、「今のブログをやめて新しくブログをはじめよう!」と思った(映画の内容とは一切関係がない)ので、ブログをこれまでのもの↓

igatk.blog.fc2.com

からこっちに移しました。絶対より良いものにしてやるというやる気が今はすごい。

ということで、まず最初の更新は映画『スリー・ビルボード』のお話になると思います。しばしお待ちを。

 

いが